紙吹雪

《予期せぬ現実》






歳三が呟いたその時、まるでその瞬間を待っていたかのように、一陣の強い風が宙を舞った。



大きく歳三の髪を揺らしたその風は、同じように屋根の上を走る物取りにも吹き付けて。



一瞬、その行く手を塞いだかと思うと、瞬く間に物取りの顔を覆い隠していた黒い布を吹き飛ばす。



飛ばされた布は風に乗って夜の闇へと飲み込まれていった。




夜の冷たい空気に直に晒された物取りの顔。


黒の中にうっすらと浮かび上がるそれは、驚くほど白い。





ドクンッ





眼前に現われたその素顔に歳三は視線を奪われ、呼吸の仕方すら忘れてその場に立ち尽くした。



心臓はこれでもかというほど五月蝿く脈をうち、呼応するように背中に流れる嫌な汗。




布が飛んでいったせいか、それとも追い掛け続ける歳三を気にしてか物取りも屋根の上で足を止めている。




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