精神の崩壊
 「お前が…あんな電話を…」
 「…掛けて来るから……」
 「こんな写真を……」
 「持って来るから……」

 正春は、動かなく為った男にそう言って、金の入ったバックを握りしめ、車へと戻って行った。

 そして、トランクにバックをほうり込み、スコップを取り出し林の中へ戻って行った。

 ザクッザクッザクッ…………

 林の中に穴を掘る音が響く。

 「お前がいけないんだ……」

 ザクッカツンザクッ…………

 「やっと掴んだ幸せ……」
 「やっと掴んだ名誉……」

 カランカツンザクッ……

 「壊されてたまるか……」

 そして、穴を掘る正春の傍には、走り去る正春の車と、道に倒れた少女が写った写真が落ちていた。

 あれは、一年程前だった。

 正春が、仕事の打ち上げで酒を飲み、車で帰っている途中、誤って少女を撥ねてしまったのだ。

 そして、正春は怖く為って、その場から逃げた……。

 その時の写真を、この男は持っており、それをネタに正春を脅して来たのだった。

 そして正春は、今の幸せを守る為、始めて人を殺した。

 そして正春の過ちは、男と共に雨の降りしきる林の中へ消えて行った。

 そこへ、幸せへの執着、名誉への執着を浮かばせながら。
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