隣人の狂気
男は一方のビルの壁にもたれかかり足を投げ出すように座っている。

呼吸はやや荒く脂汗を浮かべ表情も苦しげだが、目元だけはどこか満足げだ。

「頸動脈かぁ。そりゃあさぞかし盛大に血が吹き出して、それこそ血の雨だったんじゃない?」

女はそんな男を通りから隠すようにちょこんとしゃがんでいる。

「そうでもなかったわ。ピューッ、ピューッて感じで。

でも望み通り血まみれになるには充分だったから良かったけど」

「ツゥッ…」

男が苦しげにうめくのを女は気遣うように手を差し伸べる。

「自分で刺しといてナンだけど大丈夫?
…な訳ないよね」

「いや、包丁を刺したままにしておけば出血はだいぶ抑えられると思う。

もうしばらくはこの世の住人だ」
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