隣人の狂気
「は…でぃ…ゴホン!
はい、大丈夫です」

焦った。とっさに喋ろうとしたら声が出せなかった。

そう言えば今日は一度も声を出していなかった。

糊でも飲んだかのように口の中がヌトヌトで気持ち悪い。

「そうかぁ?そうは見えんがまあ本人がそう言うんなら…」

彼は海へ向き直り歩き出し、背中越しに手を振った。

「ま、無理すんなよ」

心の中の悪魔が騒ぎだした。

(行かせてはダメだ!彼を今ここでヤらなければ一生ヤれない!)

完璧に焦っていた。

気が動転し視野狭錯に陥り、彼の背中しか目に入っていない。

「あの!すいません!」

声をかけながら彼までの十数歩を駆け出した。

彼は立ち止まって、振り向きながら呆れたような声を出した。

「なぁーんだよ。やっぱり大丈夫なんかじゃ…」

ガゴギョッ!

「ぐがぁあああああ!」


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