隣人の狂気
そうこうしている内に彼女は「やっと見つけた」とでも言うように足を止め、両手の平を打ち合わせた。

そして迷う事なくすぐ脇の建物へ向かった。

(マズイ。建物の中に入られたら面倒だ)

そんな俺の焦りとは裏腹に彼女が向かったのは建物と建物の間。

幅1メートル位の薄暗い隙間だった。

両側の建物は双子のようにそっくりで、薄汚れている事や1階がテナント用らしく大きなシャッターが閉めてある事や、そのシャッター両側ともに『テナント募集』の貼り紙がある所まで一緒だった。

きっと彼女が向かった隙間の奥にテナント用の通用口があってそこを目指していたのだろう。

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