時雨の夜に
帰りに寄るつもりだったデパートは、予定を変更してコンビニに駆け込んだ。
軽食を買う目的で来たのだけれど、次の瞬間には、その意識さえどこかに吹っ飛んでしまうくらい、気になる物を見つけた。
──そう。
あの日、傘を貸してくれた男性──。
窓に面した雑誌スペースに何食わぬ顔で立っていた。
私は声をかけるべきかどうか迷った末、結局黙っていることにした。
「先日はどうも」と言ったところで、彼が私を覚えているわけもないだろう──。
軽くため息をつきながら、彼の後ろを通り過ぎた時、
「今日は傘、あるんだね」
雑誌に視線を落としたままで、私にそう呟いたのだ。