時雨の夜に
しばらく私の顔色を見たのち、彼はオレンジ色の髪を掻いて、完全に傘を差し出した。


「はい、傘」


真顔で、無感情に。

まるで予定どおりだったみたいに、無碍に自分を雨にさらす。

そのせいで、端正な顔立ちが雨に濡れた。


その状況に、私はかなりの戸惑いを覚えた。


「でも、あなたの方が……」


彼は面倒臭いと言わんばかりに、ため息をついて、


「落ちてるから、化粧」

「えっ、うそっ!?」

「下手に拭わない方がいい、余計広がる」


そう言い足して、私の手に傘を握らせた。

< 6 / 42 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop