たべちゃいたいほど、恋してる。
守るためならなんだってしてみせる。そんな思いすら感じて。
当時は何となく残酷にも聞こえていたこの話。
今も、それは綺麗ごとだと思うところがある。
この現実で、一途に思い続ける相手と添い遂げられる人間なんてきっと一握り。
龍之介自身、健から優衣を奪ったことを理解している。
そもそも、何故幼い龍之介に父親はベッドサイドストーリーとしてこの話を聞かせたのか。
まずそこからして謎である。
どう考えても子どもには難しいその内容。
しかし彼は話の締め括りに必ずこう言っていた。
「『愛するって、簡単なことじゃないんだよ』」
だから、大切にしなさい。
そう微笑みを浮かべて言っていた龍之介の父親。
その顔を見るたび幼いながら龍之介は思っていた。
この人は母を愛しているのだと。