*写真屋の恋*
「馬鹿だよねぇ、若い僕は結果を急ぎすぎた。」
ちょっとした成功を期に、順調に付き合っていた二人は結婚。
「僕のものにしたい一心で彼女には仕事も辞めてもらった。嫌だったんだよ夜のバーで見知らぬ客の為に彼女が歌うなんて。
あの時は、自分の事しか考えられない独占欲の塊だったんだ。
それが彼女にとってどれだけ大切なものかも知らないで。…もしかしたら知ってたのかも。知らない振りをしていただけかもしれないね。」
センセイは自傷気味に微笑んで、私の髪を撫でた。
「成功したといってもまだまだ駆け出しには変わりない。僕は僕のワガママで家に居てもらってる彼女に、ずいぶんと寂しい思いをさせた。」
台所の方で食器が静かにカランと音を弾く。
私は相変わらず顔色が悪いセンセイに静かに水分を手渡した。
「ありがとう。」
コクっと一口飲み干すと、センセイは淡々と言葉を落とした。
「…出て行ったよ、彼女。しかも僕が気が付いたのはその3週間後。最低だ。どれだけ家を空けていたのか後から考えて、ゾッとする。」