*写真屋の恋*


「たいした話し合いもしなかった。向こうは分からないけど、僕は絶望してしまってね。自分の行いに。戻って来て欲しいなんてとても言えなかった。これからだって仕事で1ヶ月2ヶ月いない事なんてザラだし、それを変える気もなかった。…結局仕事を選んだんだよ。それに…」

先生は、少し口ごもり、言いにくそうに続ける。



「それに、…次にあった彼女の傍らには、見知らぬ外国人がいたんだ。すらりと背が高くて、とても優しそうな目をした男。少し僕に警戒していた。僕が少しでも彼女を傷付けようものなら、すぐにでも飛び出せるような態勢で…。二人の視線を見て分かってしまった。


お互い愛し合っていること。雪はもう僕にそんな瞳で見つめる事はないこと。雪の中ではすべて終わっていること。新しい人生を歩んでいること。

僕一人ああだこうだ悩んで、酷く滑稽に思えたよ。目の前の二人は今もう遠い所を歩いている。話し合いは書類上の事ばかりで、すんなり終わってしまった。」


遠い昔を懐かしむような、やっぱり少し傷付いたような、なんとも言えない顔で、先生が私の手をきつく握った。




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