愛、シテあげる。*完*









蓮の足に絡み付いているのはきっと、




私達の間にある数々の障害を表しているんだ、と


海に沈みながら冷静に考えた。



唇に、ひんやりとした水が触れる。



そして、





ほっぺたに





鼻に





目に








海は、襲いかかる。















息が、出来ない。




















冷たい世界へ堕ちていく……




















そんなとき、




ぱあああ、と、走馬灯のように




蓮との思い出が頭を巡る。











楽しかった。







蓮と過ごせて、嬉しかった。












幸せだった。












このこと、この前蓮に伝えたんだったっけ。







伝えられて良かったな。









素直に伝えられて良かった。










つむじに冷たい感覚。




完全に、闇に呑み込まれてしまった。














大ピンチだというのに、浮かんでくるのは君の顔で





笑顔とか、照れた顔、




魔王の顔、切ない顔、





悲しい顔、寂しそうな顔、





飄々とした顔、無邪気な顔、






いとおしそうに、私を見つめる顔








知っている限りの蓮の表情が全部、ページを捲るように次々と瞼の裏に浮かんだ。







良かった。覚えてる。



こんなときでも、蓮のこと思い出せるよ。








髪の毛の触り心地とか、睫毛の長い澄んだ瞳。


す、と伸びた鼻筋。


淡い色をした柔らかい唇。



私を呼ぶ甘いテノールの声。



冷たい指先。



少し甘くて、爽やかな匂い。




抱き締めた腕の中で感じた体温。










覚えてる。





私の全部が




蓮の全部を覚えてる。






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