六天楼(りくてんろう)の宝珠
「どこと言うか……そう、貴女の。顔色がいつもより良く見えます」

 気づいてくれたのだ、と喜ぼうとして彼女はふと引っかかりを覚えた。

「それって、いつもは悪いってこと?」

 いや、と碩有は幾分か慌てた様子である。

「貴女はそのままでも充分──別に他意はないですよ」

 翠玉は思わず顔を赤らめて何も言えなくなった。

「ああ、何だかさらに顔色が良くなりましたね」

「……何言ってるんですか!」

 からかう夫の笑顔の眩しさに、直視することが出来ない。思わず顔を料理に向け、食事に集中している振りをする。

 戴剋から婚約を言い渡された時が嘘のように、碩有は翠玉に優しかった。毎日楼には花が届くし、こうして語らう際に少しでも彼女が興味を持っているとわかれば次の日にはその物が届けられた。さすがに一度たしなめてからは回数が減ったが、戴剋も似たようなことをしていたから、話を聞いているのかもしれない。

 黙っている時にはいかにも怜悧(れいり)そうな顔が、こうして笑うと一瞬にして暖かな印象に変わるのも驚きだった。

「そうそう、明日からしばらく桐(きり)に行くので、二日ほど夕餉はご一緒出来ません。お土産を買ってきますので、何か希望はありませんか?」
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