苦くて甘い恋愛中毒


「……いつ、俺がお前を都合のいい女だなんて言った?」

「なにそれ……っ、ちがうの?! だったら、私は要にとってなんなの?」

「は? お前は俺の女じゃないわけ」

心底意味がわからないという様子で、あたり前のことのように言う。

「意味、わかんない。だって、要……、一度も、すきだなんて言わなかったじゃない!」


そう、言ったことなんてない。
久々に会った日でも、どれだけ酔っていても、あの誕生日の夜でも、セックスのどさくさに紛れてでさえも。

言わなかったじゃない。
この3年半、ただの一度だって。


「言ってないでしょ……」

それなのに、勝手なことばっかり言わないでよ。
心の中では強気なことばかり言っているのに、口から出た言葉はあまりにも弱々しかった。

そのうえ、こんなに涙を流しながら言うなんて、今まで私が馬鹿にしてきた女の子たちそのままじゃない。


もういい、今日はもうこれ以上要の前にいたくない。
部屋から立ち去ろうと背を向ける。

このまま帰ろうとするなんて言い逃げもいいとこだけど、今はそんなこと構っていられない。


――――!

優しさなんてまったく感じられない力で、私の腕を掴む。

引き留めようとでもしていつもりなのだろうか? 
そのわりには、腕を掴んだだけでなにをするわけでもない。

例えば、抱きしめたりだとか、引き寄せたりだとか、そういうこと。


どこまで卑怯な男なんだろう。

それでも、結局その手を振り払うこともできない。
その手を無視してまで、帰ったりもできない。

なにが〝終わりにしてやる〟よ。
所詮逃げ出すことはおろか、その視線を反らすことすらできないのだ。



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