苦くて甘い恋愛中毒


言いたいことはたくさんあるはずなのに、どうしてか言葉にならない。

涙が零れないようにと下唇を噛み締めて堪えたけど、そんな私の必死の抵抗も虚しく、要を睨みつける私の目からは次々と涙がこぼれ落ちた。

要と関係を持ってから3年半、要の前で泣いたのは、あの告白した日以来だった。

鬱陶しいだなんて思われたくなくて、ずっと我慢してきたのに。

要に背を向けて、涙を拭う。
今更かもしれないけど、これ以上泣いてるとこなんて見せたくなかった。


「菜穂」

世界中探しても、これほど完璧に私の名を発音できる男はいないと思う。

だからこそ、私は3年半もの間この男から抜け出せなかったのだ。
どれだけそうしたいと願っても。


「やめて」

でもそれも、いい加減終わりにしてやる。

「名前なんて呼ぶなって言ったの」

さっきから、要にしたら意味の分からないことを並べ立てられ、苛立ちが募っているのか、眉間に皺を寄せる。

でも、名前なんて呼ばないで。
そんな優しい声で。

「期待させるようなことも、そんな態度もとらないで。都合のいい女だと思ってるなら、私のこと好きじゃないなら、それなりの態度があるはずでしょう?」


思わせぶりな態度とらないで。
これ以上、突き落とされるのはうんざりよ。

さっき必死に止めたはずなのに。
ほんの数分も経たないうちに私の涙腺は決壊した。


< 102 / 119 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop