苦くて甘い恋愛中毒
一時間後に駅前のカフェで待ち合わすことになったらしい。
面倒なので返信はしなかった。
もっと言うと、待ち合わせ自体も面倒だけど。
彼氏と会うのを面倒に思うことがすでに、関係が冷え切っているのが分かる。
考えてみれば、二週間連絡のなかった彼氏から、いきなり話があると言ってきたのだ。
どんなことなのかと気にならないといえば嘘になるし、むしろ気になる。
なのに、行きたくないだなんて。
家に戻る時間もなく、少し早めに約束のカフェへと向かった。
彼氏と会うというのに、とくに化粧直しをするわけでもなく、鏡も見ず適当にリップクリームだけを塗った。
普段から見なりに気を使わない訳ではないし、むしろ人一倍こだわりは強いと思う。
そんな私と対照的に、やたらとケバい若い店員がメニューを片手にやってくる。
「いらっしゃいませぇ」と媚びたような無駄に伸ばした語尾に苛立ち、メニューには目を向けず、ただひと言カフェオレ、とだけ告げた。
六時間のバイトとはいえ、蓄積された疲労が襲い掛かる。
なんでこんな日に、と本気で面倒になってきた。
約束なんてドタキャンして、帰ってベッドに潜り込んでやろうかと、そんな考えが頭の片隅をよぎった。
でも、そんなことをしたら、総吾との関係はいよいよ修復不可能になるだろう。
この場合、修復する気があるのかということは置いておいて。
ぎりぎりの理性を保って、テーブルに座りなおす。
現在、約束の10分前。
普段から、総吾は妙に真面目で、必ずあたしが待たせていたから、こんな風に総吾を待つなんて珍しかった。
いつの間にか運ばれてきていたカフェオレに手を伸ばす。
おそらくそんなに時間は経っていないはずなのに、グラスが水滴で濡れているのは、この気候のせいだろう。