今宵の月は美しい【完】
でも用意して貰って申し訳ないので、せっかくなら陣野さんの作品を…と思って、目次を見たけど名前がない。

「陣野さんのはないの?」

陣野さんは既に原稿用紙を広げ、なにやら執筆作業に取り掛かっていた。

「あっ、ごめんごめん。みんなペンネーム使ってるんだ。私はこれ!」

本格的だ。

私は気合で異物オーラを出来るだけ引っ込め、指さされたページから大人しく読むことにした。

教科書以外の読書、久しぶり…ごくり。




「ね、ね、どうだった?」

よくわかりませんでした。

陣野さんは読み終わるのを待っていたように寄ってきて、キラキラした目で私を見た。

だって主人公がメイドさんで相手がご主人様って、『萌え』系の何かかと思ったら全然違ったんだもん。

メイドさん、若いのに達観していて翁のようだし。

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