私だけの王子さま
そして、夕方になり、いよいよ夏祭りが始まった。
ホームの敷地内だけのお祭りなので、規模は小さいが、近所からもたくさんの家族連れが訪れている。
地元の中学校の吹奏楽部による演奏があったり、来た人全員が参加できるくじ引き大会があったり。
子どもから大人まで、皆が楽しめる内容になっていた。
模擬店の売れ行きも好調で、焼きそばやフランクフルトなどの美味しそうな香りがしている。
私は特にやることがなかったため、賑やかな様子を眺めながら、委員長の姿を探した。
その時――…。
「相原さん」
後ろから、誰かが私を呼ぶ声がした。
振り返ってみると、そこには花梨さんと車椅子に乗ったおばあさん、そして委員長が立っていた。
「どう?楽しんでる?」
花梨さんは、ゆっくりと車椅子を押しながら近付いてくる。
「あ…はい。こういう雰囲気が久しぶりなので、なんだか懐かしい気がします」
私は、花梨さんの質問に答えながらも、車椅子のおばあさんが気になっていた。
確か、準備の時に、委員長と話をしていたおばあさんだ。
あの時、委員長は、すごく優しい表情で、このおばあさんの話に耳を傾けていた。
すると今度は、私の様子に気付いた委員長が話し出した。
「相原、紹介するよ。こちら本多シズ子さん。
ここのホームの利用者で、花梨さんの担当なんだ」