夕陽の向う
宣告の日
1-1

「先生のこと、見返してやりましょうよ!」

病院から駅に向かいながら睦子は言った。

別に先生が悪いわけではない。
それは判っている。

でも、それなら誰が悪いのか。
どこが悪いのか。

きっと何かの間違いに違いない。
こんなことが本当のはずがない。

どこをどうすればいいのか、今すぐにはわからないけれど、でも元気に頑張っていれば、いつか先生が

「ああ、私の間違いでしたね。」

という日がやってくるような気がする。

そうであって欲しい。
いや、そうにきまっている。

帰りの電車で、涙が止まらないで困った。

先生の話を聞いたすぐ後は、なんだかショックが大きくて、はっきりした感情が湧いてこなかったのだけど、そのあと、元の顔を見ているうちに涙がでてきてしまう。


元は何も言わなかった。
黙って窓を見ている。
睦子に、“泣くな”とも言わない。

睦子は思う。

「元も、きっと今必死で戦っている。
冷静になろうとしている。
元はいつも冷静で優しい。

どんな時も優しい言葉をかけてくれる。
なのに今、何も言わないのは、自分自身の気持ちをなだめることに必死なのだ。

だから、私が泣いたりしている場合じゃない。
だって、“余命が3カ月から6カ月です”と宣告されたのは、元なんだもの。」

でも、そうは思っても涙が止まらない。

「元の心の中は、今どんなになっているのだろうか。」




< 1 / 27 >

この作品をシェア

pagetop