沈黙の天使
第8章 閉ざされる道<後編>
街はずれの喫茶店には区切られた空間でゆっくりとくつろげるコーナーがある。俗に言うネットカフェだ。

暫く前から絵美と薫は席に着いている。同じ時間に待ち合わせて、誰かに見られないようにとの薫の判断だった。

しかし街はずれとは言え、天使を見る目が和らぐことはなくコーヒーを運んで来た店員ですら怪訝な顔で二人を見る。
特に絵美に至っては、ずっと無表情で会話すらしないので、不気味がる人が居ても致し方ないと言うしかないだろう。

「ごめん、ちょっと遅れた。すみません、薫さんも」

時計は一時半を少し過ぎた頃。少しだけ焦り気味の隆彦が絵美の隣に座る。

「こっちこそ、急に呼び出すような形になってしまってごめんなさいね。絵美ちゃんが私たちに伝えたいことがあるからって。ねぇ」

顔を絵美に向けると、左手を揃えて顔の前に縦に置き、無表情ながらも『ごめんっ』と言わんばかりに頭を細かく下げている。
その右手にはしっかりとホワイトボードが握られている。

「すみません、コーヒー一杯追加で」

薫が通り掛かった店員に声をかけると、面倒臭そうに返事をして伝票を持って行った。隆彦が小さく舌打ちした。

絵美がボードをテーブルの上へ出し、夢を見たと書く。

「あれ?お前目が見えるように…?」

ホワイトボードと絵美の顔を数回見比べる隆彦だが、先日の薫と同様、首を振る。

「私もびっくりしたのよ。外を歩くときも手を繋がなくても大丈夫だし、家の中でも普通に階段を駆け登ってるのよ。
不思議だけど、何か良いほうに進む前兆であってほしいわ」

コーヒーが運ばれてから絵美は不思議と忘れることのない、むしろ懐かしく思う夢の内容を話始めた。
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