沈黙の天使

「込み合う時間帯なので退店してください」

何とも失礼な言い分に隆彦が腰を上げ文句を言いそうになったが、咄嗟の薫の手に止められた。

「天使に対する扱いはいつもこうよ。事を荒立てて目立つよりは出たほうがいいわ」

じゃぁお会計を、と伝票を取り出口付近まで移動する薫を見て、何とも言えない怒り任せの表情を見せる隆彦だが、確かに目立ちたくはない。
渋々絵美を連れて立ち上がった。

「絵美ちゃんも伝えたいことは伝えられた様だし、これで帰りましょう」

薫の付けている腕時計は、もうすぐ三時を指そうとしている。

「また何かあったら携帯に連絡ください。公衆電話からでもなんでも、絶対出ますんで」

名残惜しそうに隆彦の上着の裾を掴む絵美も、諦めて軽く手を振ろうとしたその時。

「隆彦っ!お前は何度言ったら解るんだ!あれだけ天使に関わるなと言っただろう!
知り合いからお前を見たと聞いて探してみればこれだ!いい加減にしろ!」

叫びながら近づいて来たかと思えば、隆彦の胸倉を掴んで顔面を一発殴る。

「貴様らも貴様らだ!毎度毎度息子を連れ出して!俺の息子を殺す気か!」

「そんなっ…」

怯えているのか、絵美が薫の腕にしがみつく。

「特にお前っ!表情も変えずに気持ち悪いぞ!お前も天使なら親が居ないんだろう?!人殺しめ!」

「ふざけんじゃねーよ!」
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