新しい歌

 はっきりとした結論めいた話にもならず、結局はレイの気持ちを尊重するという形になった。

 一応、ドキュメント番組の件は応諾する事にはしたが、他の取材とかは極力断るという方向に落ち着いた。

 那津子がレイを深海魚のマンションに送ってから暫くして、私の携帯にメールが入った。

『今から会える?』

 那津子からのメールだった。

『今、丁度部屋に帰ったところだ。何処で会う?』

 返信すると、

『そっちへ行く』

 と返って来た。

 何年ぶりかで彼女と一つの部屋で時を過ごす……

 幾らか落ち着かない気分になった。

 慌てて部屋の中を片付け、脱ぎ散らかしたままの洗濯物を押入れにしまう。初めて彼女を部屋へ呼んだ時の事を思い出した。

 メールが届いてから三十分程して彼女は部屋にやって来た。

「この部屋に来たのは初めてだな」

 別居する前に二人で暮らしていたマンションは、独り身には広すぎて、私はここに引っ越した。

「思っていたよりかはきれいね」

 皮肉としか受け取れそうにもない那津子の言葉に、苦笑いをするしかなかった。



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