青いリスト
紀子の精神はもう限界まで来ていた。
ある日、メスと注射器を職場から持ち出した…
メスを手首に当ててみた。ひんやりとした感覚を覚え一瞬ふと我に帰った
[何故私だけが…何故…何故…]
我に帰るという事は、傷ついた自分に戻るという事だ…
そんな事を考えていた紀子は突如、無表情になり今度は躊躇せずメスで手首を切った。
無抵抗で溢れ出す血の色も…
人間の脆さを露呈するパックリと開いた傷口も…
今までたくさんの患者を見てきた[それら]と何ら変わりはなかった。
[何故…私だって人間だよ…他の人とどこが違うの?血も傷口も…他の人間とどこが違うの?]
[そうだね…他の人と一緒だよ…]
[えっ?]
突然どこからか声がした。
紀子は声の出元を必死で探し耳を澄ました。
[ここに居るよ…]
その声は紀子の体の中から出てきた。
発信された声は、体内から脳へと、直接通り抜けるのではなく、一旦外に出て、外耳の方から聞こえてきた。
外側から聞こえてくる声は紛れも無く紀子の声であった。
初めて自分の声を、カセットに録音して聞いた時の驚き…
普段、自分の声を自分で聞いている声と、他の人が聞いている自分の声との違い…
すぐに自分の声だと気づかなかったのは、他の人がいつも聞いている紀子の声であったからだ。
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