青いリスト
[それは分かったから、店長さんに飲んでよって言ってるの]
紀子の目には涙が溢れていた。店長は気にとめる事もなく
[店長、店長と言いましても私も会社の方から雇われております、だから正直穏便に済ませたいとも思っております。他のお客様もおられます]
周囲は紀子に好奇な視線を送るものや、見ていなくても、聞き耳はその不可解なやり取りに向けられていた。
[要するに出ていってくれってことだよ、なぁ店長?]
近くの酔客がわめいた。
その声が店長の背中を押した。
[他のお客様もあぁ言っております。今日のお代は結構ですので、お引き取り願います]
紀子は呆気にとられていた。
今まで楽しそうに話してくれた店員は何だったのか?喜んでお酒を[頂きます]といって美味しそうに飲んだのは何だったのか?
それが…急に出ていけ…一体自分に何がおきているのか…
自分のどこが悪いのか…
もう何を言っても無駄だと分かり、紀子はそそくさと店を出た。
店を出ると雨が降っていた…タクシーを待つ間、店の屋根の下でポツンと立っていた。
雨音を掻き消すかのような大きな笑い声が店内から聞こえた。
紀子には分からなかった。
その大きな笑い声の意味も…
何故自分が追い出されたのかという事も…
いくら考えても理由が分からなかった。
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