赤い白ワイン
流れる時間。

空白の時間が過ぎ、彼は私の言葉を漸く聞き入れた。

僅かながら心を許したのか幾分殺気を抑えると、私から目を放すことなくナイフを部屋の隅の木製の古ぼけた書き物机の上に音も立てずに置いた。

強い殺気から解放された私は少々の安心を得て、指先の煙草を口に銜え直す。

そして彼の顔色を窺いながら先ほどまで彼が横になっていたベッドの端に腰を下ろし、肺の奥底まで吸い込んだ煙草の煙を口腔から吐き出した。

「さあ。
お前さんも、そこの椅子にでも適当に座ってくれ」

私が椅子を勧めると、彼は無言でこの部屋に一つしかない椅子を自分の下、私と対峙する形で引き寄せて腰を落ち着かせた。

私と彼との間は、約五歩の距離が置かれている。

彼が先ほど置いたナイフに手が届く範囲に座っていることが気に掛かる。

私が下手なことを言えば、彼はナイフを片手にいとも簡単に私に躍り懸かるかもしれない。
先ほど見せた彼の瞬発力ならば、約五歩の距離は一歩にも満たないだろう。
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