先生、男と女になれません。 -オトナの恋事情ー
宮澤さんは夕べもここでカレーの残りを温めて一緒に食べて帰って行った、そして後片付けも僕がやると言ったのにきちんとこなして……。


ほんの少しだけ端が欠けたバウスクのお皿や、カラバのサラダディッシュは指で触れるとキュッと音を立てる程キレイになっているし、水回りも水アカや曇り1つ無い程キレイになっていた。


こうした所から見れば、料理も出来るし後片付けも完璧で案外いい奥さんになれそうだとは思うけれど、性格があれでは余程のM体質でなければ無理だろう。


「女王様じゃなければなぁ……」


そう呟いてマイスンのポットへまずお湯を注ごうとした瞬間、チャイムが鳴る。


こんな真昼間から誰かお客が来るなんて珍しいので応対に出てみれば、元担当にして現フリー編集者の原さんだった。


「本当に久しぶりだね、今、携帯小説で頑張っているんだって? 」
「まあ、まだまだで宮澤さんに怒られっぱなしですけど」


リビングのソファの向かい側に座る原さんは、もう会社勤めではないのにきちっとした仕立てのいいスーツに身を包み、編集者らしからぬ清潔感にあふれた大人の男。


それに比べて僕は学生の頃と何ら変わりの無いロンTにデニムという姿で、何だか恥ずかしくなる。



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