先生、男と女になれません。 -オトナの恋事情ー
「和希、そいつを捕まえて」
「はいはい」


宮澤さんに命令を受けた壁こと美青年は僕を軽々とお姫様抱っこして、店の入り口から再びカウンターへ運ぶ。


成人男子なのに食が細くてやせぎすなばっかりに……男に軽々と抱っこされるなんて屈辱だ。


「カコちゃん、ここで下ろしていいのかしら? 」
「ああ」


椅子に僕を座らせた後、脇を固めるように彼も横に座った。


あまりの出来事に口が利けないままの僕へ彼は微笑みかけ、ポンと肩を叩く。


「可愛いわぁ、キミ」
「か……可愛いですか? 」
「和希、なんならそいつをコマしてもいいぞ。あたしの下僕だから」


それは困る、僕にはそんな趣味が無いし、大体相手の体格から考えてこっちが受け身になる予感しかしない。


慌てて逃げようとしたら、手首を掴まれて席へ引き戻された。


「ダメダメ、逃げちゃ。まだ夜は始まったばかりよ、ちゃんと順序を踏んでお互いを深く知り合いましょう」


知り合いたくありません、そう首を激しく横に振るけれど細くて長い指先がツツーッと手の甲を這い回り、おまけに肩へ腕まで回される。

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