光~夢見るホタル~
 久しぶりに肌に感じる、本当の外の世界。
 まるで、夢の中にいるように体が軽い。
 ダンスでも踊るような足取りで、家の裏にまわる。
 そこは、ホタルのベッドのある窓が向いている、空き地。屋敷と屋敷の隙間にたまたま出来てしまった、なんでもない空間。
 ホタルがあの部屋に来たときから、その空間は庶民の子供達の遊び場だった。
 上から見ていた時は、小さい子供から大きい子供がそれぞれの遊びをしていて、とても騒がしかった。
 しかし、最近はそんな騒がしさが聞こえないでいた。
 道という土を、久しぶりに踏みしめた。雑草を、久しぶりに近くで見た。
 昔は、よく抜け出したものだ。抜け出す度、エレンが義母に怒られていたっけ。
 エレンももうおばさんなんだから、いい人を見つけて幸せな家に行けばいいのに。
 と、さっきの子供だろう。ホタルのほうへ駆けてくる影が見えた。
 久しぶりに外に出たせいか、昔に比べて家の裏までの距離が長くなったような気がした。
 彼らの服は、どう見てもホタルのそれとは全然違う。
 作りといい、素材といい、見栄えといい、どう考えても差がある。
 泥に汚れ、ほつれだらけの彼らの服が、ホタルは少し羨ましかった。
「悪いな。部屋、大丈夫か?」
チームでいうリーダーにあたる子供が、ホタルに手を差し出す。
 日焼けをして黒くなった手。まめが出来ていて、形の悪い手。
 その手にボールを渡している綺麗な手が、ホタルには恥ずかしかった。
 なにも苦労も知らない、綺麗な白い形のいい手。
「うん。大丈夫。なにも壊れなかったよ」
うつむいてボソッと。ホタルにはそれを言うのが精一杯だった。
 糸のようにか細く、風の音ぐらい小さい声。
 すり減った彼の靴と、土を初めて踏みしめた綺麗な靴が、ホタルの目に映る。
「それなら、よかった。マジ悪かった。じゃぁ」
ボールを握った彼は、ホタルに背を向けると仲間のところへ歩いていった。
 その仲間も、彼が歩いていくのと同時に振り返って空き地に向かう。
 男女あわせての5,6人。ホタルとそんなに変わらないくらいの子供達。
 その中に1人も、ホタルのような服装や肌をしている者はいなかった。
 ホタルは、去っていく彼らの背をただ見つめていた。
 
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