Stylus
あの日、俺は仲間の一人である高橋と一生に新宿で飲んでいた。8月の暑い夕方だった。
高橋は、俗に言う『ヲタ』な『キモメン』だったが、身長188Cmで60Kgのモデル並だったので、彼女がいた。高橋はどMだったのでぽっちゃりした強気な女の子にモテた。
23時過ぎたあたりで高橋が彼女からの着信で引き上げると言うので、高橋と別れた後、俺は、どうするかなと思いながら終電に乗ろうと駅へ向かっていた。
丁度その時、雨が降り始め、雷がなって土砂降りになった。

『いや困ったな』

と、確か、独り言をつぶやいた。
その時、雷雨にもかかわらず、女の笑い声が聞こえて来たのだ。
気のせいな気もしたがハッキリと聞こえたのを覚えている。

ふと、振り返ると女がタバコをふかし、靴屋の前の軒先で雨宿りをしながら、独りで大笑いをしていた。

『病気だな。』と思いながら、どこかで見た顔だなとも思いながら、前を向いた瞬間、誰かにぶつかってしまった。

慌てて、謝ろうとした際、『すびまぜん』と噛んでしまった。


相手は大きな男だった。彼は俺を見るなり、いきりたって来たのだ。

当然、俺は逃げ出した。


走った。


走って走って走った。


息が切れて、苦しくて、顔が歪んでも走った。



そして、逃げ切った・・・





呼吸を整えながら、時計をみると0時30分を過ぎていた。そう、終電を逃していた。服もずぶ濡れだった。
俺は自分の無力感に襲われ、ただ黙って座り込むしかなかった。

『ついてないや。』


そんな言葉を吐き捨てた時に、彼は現れた。
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