Stylus

出会いは突然に

あれから、1週間程経過したが、例の彼から何の音沙汰もなかった。その間大学はまだ夏休みだったので、普通にバイトをし、普通に友達にあい、普通にグダグダした一日を送っていた。もちろん、新宿には近づかなかったが。
そんなある日、借りていたDVDを返すため、駅前のビデオ屋『ビデオスペシャル』に行った。俺はモテないがエロビデオは借りないことを誇りにしている。いち映画好き、いやもう既に映画人と呼んでも言いくらいだと自負しているのだからエロビデオを見ることは沽券にかかわる、そんなふうに考えていた。
その日も疲れた心と身体を癒すために、お得意の『コメディー』のコーナーを物色していた。コメディーコーナーは、アダルトコーナーの隣で、『長時間コメディーコーナーを見ている』イコール『アダルトコーナーに入る勇気がない』と見られてしまう的なやすし方程式が成立していたので、俺は常に秒速で物色し適切なコメディーを選択していた。俺的にはその道のプロ意識があったのだ。
しかし生憎その日は既にチェック済みのものしか空いてなく、まだ未チェックのものはアダルトコーナー入口付近にしかなかった。

俺は、

『背に腹はかえられんか・・・』

と独り言をいい、やむを得ず、危険なエリアに突入して行った。
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