ちっちゃな彼女。*30センチ差のいちごな初恋*
☆裕也side☆


流れる空の下。

俺が考えていたのは…
津田のこと。

嘘をついた。
津田を“友達”だから、誘ったんじゃない。

きちんと“友達”だと、まだ思えていないのに。

俺が津田を誘ったのは…
津田のことを-…。


「…ちゃん?裕ちゃん?」
「え、何?」
「人の話を聞かないんだからー。ご飯、進んでないよ?」

自分の手には、1口2口かじっただけの、焼きそばパン。

「ちゃんと食べなきゃ。あたしのお弁当食べる?」

麗奈は、自分の弁当箱の玉子焼きを、箸でつまんで言った。

「いや、いい」

そう言って、手にしていた焼きそばパンを食べる。

「いいから♪はい、口開けて?」
目の前に玉子焼きを、差し出される。

いくらここが屋上で、誰もいないからってそれは…。

「…いいよ」

俺がもう一度断ると、麗奈はしゅんとして箸を下ろした。

「麗奈?」

うつむいた麗奈に顔を近づける…と、

「はい、隙あり~♪」

口の中に玉子焼きを、放り込まれた。

「どう?おいしいでしょ?」

口の中には、程よく甘い玉子焼きの味が広がる。

「おぉ」
「ふふっ♪うちのお母さんの玉子焼きは世界一なんだからっ」

お母さん。
麗奈がおじさんの再婚相手を、そう呼ぶのも自然になった。

本当の親子ではないけど、2人の仲が良いのは、見て分かる。

明人さんの事も、いつか“兄”と思えるのだろうか。

今はきっと…思えていないだろう。

少し暖かさを纏った風が、麗奈の髪をなびかせた。
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