ちっちゃな彼女。*30センチ差のいちごな初恋*
「ねぇ…裕ちゃん?」
麗奈がゆっくりと視線を向ける。
「キス…しよっか」
「は…」
拒む前に、麗奈の唇が軽く当たった。
体が固まる。
すぐに麗奈は離れたけど、時がすごく長く感じた。
「麗…奈?」
麗奈は弁当を片付け始める。
「何びっくりしてるの?あたし達付き合ってるんだし、このくらい当たり前でしょ?」
「………」
言葉が出ない。
「…誰の事を考えてたのか分からないけど、あたしの事じゃないくらい分かるよ。第一、あたしが偉そうに言える事じゃないけどね。でも…」
麗奈は片付け終えた弁当から、視線を俺に移して、真っ直ぐ見つめる。
「裕ちゃんの彼女はあたしだから」
そう言うと、麗奈はすっと立ち上がって「じゃあ先に戻るから」と、屋上を後にした。
俺はずっと動けないままで…。
それは麗奈の目に、うっすら涙が溜まっていたからで。
「彼女はあたしだから」という言葉は、その目は、
“約束”を守れ…と、訴えているように見えた。
キーンコーンカーンコーン…
予鈴のチャイムが鳴る。
「…はぁ」
俺はその場に寝転んだ。
次の授業はサボろう。
麗奈は“彼女”
津田は“友達”
呪文のようにその言葉を、頭の中で繰り返した。
何度も…何度も…。