すると紗来は力無く首を横に振った。

「私さ、ずっと寂しかった。独りで平気だとか意気がってた時期もあったけど、でも本当は寂しかったんだ。私のお父さんは私が生まれてすぐに理由も言わず、私とお母さんを捨ててどこかに行っちゃったんだって。」

紗来は寂しそうに笑って言った。
それから、父親がいなかったせいでいじめられてきたことや大変な思いをしてきた母親のこと、未だに父親を許せないこと、そして、人を信じるのがどれ程難しいことだったかということを続けて語った。

私は黙って紗来の話を聞いていた。

「自分も辛かったけどさ、やっぱりお母さんが辛そうにしてる姿を見るのが一番悲しくて。見たこともない父親を恨んで、人なんか絶対に信じないって思ってた。」

でも、と紗来は続ける。

「いろんな本読んだり、ニュース見たりしてさ、私だけが苦しんでるわけじゃないんだってわかって、今までの私はただふて腐れて前に進む努力をしてなかっただけだって思ってさ。その時考え方がガラッと変わったの。」

紗来の表情が少し明るくなる。

「だから、ちゃんと人を信じてみようと思ったんだ。」

それが今の私の明るさの理由、と付け加えた紗来。

紗来が眩しく見えたのは
決して夕日のせいなんかじゃないだろう。
紗来は強い。
こんなにカッコイイ女の子と親友になれた喜びが私の中に溢れてきた。

「よぉ〜〜しっ!私も頑張るぞっ!」

ガッツポーズで立ち上がり海に向かって叫んだ。
すると紗来も

「よぉ〜〜しっ!私も紗奈に負けないもん!」

負けじと大きな声で叫ぶ。
私達は顔を見合わせて笑った。

海に背を向け歩きだそうとした時に
紗来が小さな声で私に言った。

「聞いてくれてありがとう。」

照れ臭い顔は夕日でごまかし
私も紗来に向かって言う。

「紗来と出逢えてほんとによかった。」

ふたりの距離がまた縮まった、そんな気がした夏の日だった。


それから穏やかな秋の日を越え
私の好きな季節、いや、私と紗来の好きな季節、冬がやってきた。

一段と冷え込んだある朝のこと。

「紗奈〜!!」

来た…。
私は無視を決め込んで
そのまま机に突っ伏した。
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