モノクロォムの硝子鳥

カタカタと、ひゆの身体が小さく震え出す。

弱々しく、儚くて……脆い。
今にも壊れてしまいそうな危うさを見せるひゆに、九鬼は沈鬱な面持ちを浮かべた。

強く握りしめ過ぎている小さな手は、血の気が引いて白くなってしまっている。
次第に震えが大きくなっていく身体が、不意に大きく横へと傾いだ。
ひゆの身体は、伸ばされた腕に引き寄せられて広い胸元に閉じ込められた。


「……ッ…い、や…」


一瞬の出来事に反応しきれなかった。
九鬼の胸に抱かれながら、ひゆは慌てて嫌だと抵抗を見せる。

だが、弱々しい抵抗は九鬼には何の効果もなく、より一層強く抱き締められてしまう。

心が苦しくて痛い。
痛いのに、優しい腕が、包み込む温もりが気持ちを掻き乱して別の苦しさを生む。

――どうして、自分はこんな目に遭わねばならないんだろう。
知られたくない過去にまで土足で踏み込まれる苦痛に、傷口がさらに広がり痛みを増した。


「…離し……て、…嫌…ッ!」

「申し訳ありません。ですが――」


力強くも締め付けない程度にひゆを捕らえる逞しい腕と胸。
嫌だと繰り返していたひゆの声は、掠れて小さく消えていった。

握り締めて色を無くしそうなひゆの手を、九鬼は空いている方の手でそっと包み込む。
すっぽりと包まれても余りある小さな手。

強張りを解くように何度も優しく撫でて、冷たい手に温もりを灯す。
やがて、僅かに力を解いた手に指先を差し入れ、指と指を絡めて甘く繋ぎ合わせた。


「もう少し、話を聞いて頂けますでしょうか? ――ですが、蓮水様がお嫌でしたら、この先は申し上げないように致します」


ひゆの耳元に唇を寄せて、優しい声音が告げる。

――知っているんだ、この人は。
きっと、何もかも。

ひんやりと冷たい耳朶に九鬼の唇が触れ、その熱さにヒクリと肩が震えてしまった。

九鬼はひゆの震えをまだ怯えているのだろうと思い、抱いている背中を労わりを込めて優しく撫で続けた。

ひゆの抵抗はもう無い。
それでも、九鬼はひゆの身体を抱く腕を解く気配を見せず、腕の中に閉じ込めたままだった。


「……蓮水様?」


先の問いには肯定も否定も出さず、ひゆは九鬼の胸に顔を埋めたまま何も答えなかった。

目を閉じて、心を閉ざしてしまえたらどんなに楽だろうか……。

思い出したくない過去を封じ込めたくて、また無意識に唇を強く噛んでいた。

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