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部屋の鍵は開いていた。
玄関には見慣れたスニーカー。「なんとなく」の気持ちで渡しておいた合鍵は、確かに機能している。
「おかえりー」
キッチンからユウがひょっこり顔を出した。
笑うと見える八重歯に、あの頃と変わらないあどけなさを感じて、ほっとした。
ユウは笑顔で駆け寄ってくる。
「ただいまのチューは?」
「馬鹿なんじゃないの」
冷たくあしらうハルナに、ユウは不満気に唇を尖らせた。
それを見送ってハルナは、中に入ってソファーに腰を下ろした。
良い匂いがする。
デミグラスソースの匂い。
ユウは器用で、昔から料理が得意だった。
「ちょうど良かった。今出来るとこ」
「お腹空いた」
テレビをつけて、何をする事もなくぼーっと眺めてみた。
お笑い芸人がおかしな格好でコントをしている。
面白くない。
そうこうしていると、ユウが料理を運んできた。
綺麗に盛り付けられていて、とても美味しそうだ。
「ちゃんと手洗った?」
「あ……忘れてた」