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気まずさを紛らわせる為に、ハルナはテレビに集中しているフリをした。
ドラマは一時中断し、コマーシャルが流れている。
そこに映ったのは、よく見慣れた顔だった。
「あ、ユウ」
高橋がぽつりと呟く。
最新モデルの携帯電話のコマーシャル。
駅とかでよく見かけるポスターと同じやつだ。
って、そっちじゃなくて、それを持ってる男の方に高橋は反応した。
もちろんハルナも、反応した。
なんか実物より格好良く見えるんですけど。気のせいかな。
「すごいよね、ドラマにCMに引っ張りだこじゃん」
高橋の言葉に、ハルナは黙って頷くしかなかった。
そう、ハルナの恋人の宮澤ユウは、芸能人だ。
そんな彼と、一般人のハルナが同棲なんて、おかしな話。
事務所の人はもちろん猛反発するだろうな。今のユウの人気は半端ないから。
よく見る雑誌の「恋人にしたい男性芸能人ランキング」とかいう記事で、一位のところにユウの写真が載っていた時は、思わず飲んでいたレモンティーを吹いたよね。
それでも、ユウが一躍人気者になったのは、ここ最近だ。
高校一年の、少なくともハルナと出会うまでは、俳優を夢見る普通の男子高校生だった訳だし。
本当にここ最近。
有名な映画監督の作品で、重要な役に抜擢されて。その演技が高く評価され、なんか良く分かんない凄そうな賞を受賞して。
それからだ。ユウが馬鹿みたく売れ出したのは。
ほんの数ヶ月前くらいの話。
今でも、不思議な感覚。こうやってテレビの中にユウを見るのは。
「これの女が…これかぁ」
「何その目」
「ハルナ家事なんにも出来ないのに、同棲なんてしたらユウが疲労で死んじゃうよ」
「やらないだけで、やろうと思えば出来るの」
「出来ないやつは皆そう言うんだよ」
……返す言葉が見つからなかった。
でもユウはそれくらいの事は見越している。今さらハルナにそんな事を求めてはいない。
だとしたら、それは、ただ純粋に。
高橋の言った通り、ハルナと一緒に居たいってことなのかな。
うーん……。
やっぱり、考えんのはやめた。