ウォーターマン
「ねぇ、あなた」
友安が非番の日の夕暮(ゆうぼ)、パート先を退けてきた恵子が、恐怖心を露(あらわ)にした声調で、開口した。
「何?」
 友安は、TV観戦をしながら答えた。
「私の話聞いてくれる?」
「何だ。早く言って」
 友安はボクシングの世界戦に、夢中になっている。恵子はむっとしたが、
「最近、確認できないが、誰かの目線を感じることがよくある」
 と不可思議な体験談を語った。
 友安は最初真面目に聴いていなかったが、恵子の真摯(しんし)な態度に段々引き込まれ、傾聴(けいちょう)してしまった。そして、
「万一の時は、携帯電話をして。直ぐ対処(たいしょ)するから」
 とアドバイスしたのである。
 ウォーターマンの活動は、日本革新の進捗(しんちょく)と並行してエスカレートしていった。一月八日深夜、相武州内最大の暴力団三和会の組長及び幹部数名が、東京府内の焼肉レストランから出た所を、何者かに襲撃されたのである。
 三日後、ウォーターマンからテレビ太陽宛に犯行声明文が送られた。書状の中身は暴力団絶滅宣言で、
「暴力団は、即刻解散せよ。解散しない場合ウォーターマンが、組員全員天に代わって征伐する」
 という激越な内容であった。
 極道共は自分たちに対する宣戦布告文を発したウォーターマンに、応戦する構えを示した。併し以後も声明通りヤクザが、一日一殺されていったので、本当に解散する組も現れた。この為世人(せじん)は二十一世紀のスーパーマンたるウォーターマンに、好意的であった。
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