ウォーターマン
戦雲
 警官は、ざっと百人はいる。
「突っ込むぞ」
 シュンスケはゆっくりと、
「はい」
 と高山に応えた。
「よし!」
 払暁のピョンヤン市街を、銃声が揺り起こしていく。

 日本海海上では、爆撃機及び戦闘機が編隊を組んで、航空母艦から飛び立っていた。連合艦隊司令長官村田圭一郎は、飛行機群を眺望(ちょうぼう)しつつ、
「日本復活」
 の文字を噛み締めている。
(敗戦以来、漸く日本は主権国家に戻れたのだ)
 村田は昔日(せきじつ)、
「自衛官」
 と称されていた。
 共産主義、無政府主義全盛の時世(じせい)には自衛官というだけで、平和主義者を自称した非武装中立論者から白眼視されたものだった。磨生政権発足以降、自衛官は軍人という人格をやっと容認された。正当防衛さえ悪と見なし、他国に拉致されている自国民を、国を挙げて救恤(きゅうじゅつ)しようとしなかった国民と政府の変わり様に、村田は感慨を深めずにはおれなかった。

 高山は、壮烈なる闘撃の末、横田の個室の戸を開け放った。
「横田さん!何処だ?」
「銃を捨てろ」
 北朝鮮の警官が、横田を後ろよりふん捕まえて、ピストルの銃口を、人質のこめかみに突きつけている。
 左腕をなくしているシュンスケが、
「それでも警官か」
 と詰った。
「もう一度言う。銃を捨てないとこの女を殺す」
 北朝鮮のポリスマンは、合成音の如き無感情な声色(せいしょく)だ
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