上司に恋しちゃいました
「もう帰るのか?」


ベッドに座りながらブラジャーをつけているあたしに向かって、鬼の王子は名残惜しそうに言った。


「夜が明ける前に帰らないと、また遅刻ギリギリに出社することになりますよ?」



鬼の王子は、何も言わずに煙草の煙を深く吸い込んだ。



寝煙草をする男なんて嫌いなはずだった。



ベッドに灰が落ちたらどうするんだと憤慨してしまう。



……なのになぜ、許してしまうのだろう。



できることなら嫌いになりたい。



たった一つでも嫌いな所を見つけたい。



マナーの悪い男なんて、見るだけで嫌気がさすのに、そんな姿でさえ見惚れてしまう。

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