上司に恋しちゃいました
本当は、このまま寝てしまいたかった。
脱ぐと意外と逞(たくま)しい鬼の王子の胸板に顔を埋め、痺(しび)れた身体を指一本動かずに、朝まで眠ってしまいたかった。
……けれど、そんなことできない。
こんなにしょっちゅう家に帰らなかったら、奥さんが怪しみ出すだろう。
あたしの……戒め。
さっさと着替えて、「じゃあまた明日。会社で」と言ってホテルを出た。
お別れのキスも、甘い言葉も一つも言わず。
帰り支度をする気配のない鬼の王子を、一人ホテルに残して。