空唄 ~君に贈る愛のうた~
このギターを弾く度に大好きなお兄ちゃんのことを思い出す。

八歳上の優しくてかっこいい、自慢だったお兄ちゃんを。

そして、無意識のうちに抑え込めてる“あの事件”の記憶も。

花音の突然起こる発作の、いちばんの理由。

周りもみんな気を使って、その話題は今では滅多にでない。

あの夏の日、お兄ちゃんがこの世からいなくなった時のこと。

私が思い出さないように――


「だめだ……、また発作が起きちゃう」


はぁー、と深くため息をつく。

気づいたら、心臓の鼓動が早くなっていた。

ギターを意味もなく、指で弾く。

その音が、スピーカーから流れる音楽とともに部屋の空気の中に溶けていった。


「続きを作ろうか」


そう呟いて、ギターを弾きだした。

< 44 / 141 >

この作品をシェア

pagetop