私がヒールをぬいだ時
『こっちで暮らすつもり?』


『うん…』


ぎこちない会話だった


『農業やってるん?』


『そうや。家そうやからな。やっと田んぼも終わってホッとしてるとこや』


『結婚したん?』


『まだ…お前は?』


『まだや…』


『選びすぎちがうんか』と新伍は笑った


『そっちこそ、選びすぎやろ』と私も笑った


『お前思ってるやろ?やんちゃだった男が、えらい変わりようやな〜って』


『うん、少しな』


『俺かて不思議でかなわんわ…気がついたらトラクターのっとった』


『大変な仕事やん』


『だから中々嫁さん来てくれんのや』


『私もそうや。仕事仕事で男も寄り付かんわ』


そのうちコーヒーがきた。店全体にヘーゼルナッツの香りがひろがった


『ひかるの妹の店、時々行くで』


『ありがとう、また行ったってな』


『夫婦二人で頑張ってて、見てても気持ちええわ』


『そやね、仲はいいから私も嬉しい』


私は新伍が食べ終わるまで話しをしていた


『ほな俺帰るわ…あ、なあひかる』


『なに?』


『これやるわ』


と新伍はポケットから土のついた名刺をくれた


『なんかあったら…かけてこいや。なんもなかったら別にええ』


『ありがとう』


そこには携帯電話とメールアドレスが書かれてあった


そして新伍は店を出ていった


お店の人が、『青木さん、あんなにしゃべるん初めてきいたわ』と言った

『私達同級生なんですよ』


『ああ…どうりで』


昔から無口だったもんな…やっぱり相変わらずいい男だ


いい旦那になると思うんだけどな


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