私がヒールをぬいだ時
新伍はそのまま仕事に行き、私はホットコーヒーを頼んで、雑誌を読んでいた


ハワイアンの流れる店内が心地よかった


『あの…ここいいですか』と声がした


前にはあゆむちゃんが立っていた


『ああ…ええよ』


『すいません、シフォンケーキとアイスコーヒー下さい』とあゆむちゃんは言った


『あゆむちゃんは、この近くなん?』


『お好み焼き屋のY屋の近所です』


『じゃあ近くやね』


『新伍兄ちゃんと何話してたん?つきおうとるの?』


『そんな…付き合ってないよ。私の仕事の話ししてただけ』


『新伍兄ちゃんは渡さへんよ…新伍兄ちゃん傷つけたりしたら許さへんから』


新伍、何かあったんだろうか?あゆむちゃんは私に真っ直ぐな目を向けてくる


『私は…新伍の同級生で友達なだけやから』


『嘘!あなたは新伍兄ちゃんの事、好きな目しとる』


『そんな事ないよ…じゃあ、先帰るわな』


『私は新伍兄ちゃんに抱いてもらうために真っさらにしてんねん、あんたとは違う。はよう東京戻ったらええねん!』


なんか胸に突き刺さった


あの子の視線、言葉…そして純粋な心


なんとなくここにも、私の居場所はないような気がした…


帰り道、松見のバイクとすれ違った。松見のクラクションで気がついた


私は車を路肩に停めた


松見がやってきて、『ひかる、どないした?元気ないやんか』


『そんな事ないよ、思い過ごしや』


『ぼんやり運転は事故の元やで、気をつけて帰れや』


そう言って、松見はバイクを走らせた


なんか心が重いけど…帰ったらまた仕事が待っている


泣き言は言えないぞ!





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