【短編集】フルーツ★バスケット

「じゃ、また明日ね~」

 美夏は、両手を高く左右に振って、一足先に路地を曲がっていった。

 あたしも、それにつられて片手を大きく振った。

 だけど、今話していた内容が思い出せない。

 さっぱり、というほど。


「さて、やっと俺たちの時間、取り戻せたね」

 急に変わった口調に、背筋が凍り付いた。


「何言ってるのよ」

 それを悟られないように、軽く交わしたつもりだったんだけど。


「桜って、演技下手だね」

「悪ぅございましたね」

 コイツは、エスパーか。

 、と思うくらい心情を読み取られてしまう。

 瑞希と二人になると素直な心は、何処かに置いてきぼりにされたみたいに、捻た言葉しか出てこない。


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