【短編集】フルーツ★バスケット

 この人、本当に怪我人なの、と思うくらい元気な歩幅で廊下を歩いている。


「すみませぇん」

 保健の麻里先生は留守なのか、返事は無かった。

 此処に来たものの、意味ないんじゃない?


「ねぇ、それだけ元気なら教室に──」

「俺は傷ついた。桜、当然癒してくれるよな」

 ちょっと、いきなり呼び捨てないでよ!!

 ……なっ!?
 
 反論する間もなく、唇を塞がれた。

 あ、あたしの、ファースト・キス返してよ!!

 白いカーテンがユラユラ、と揺れているのが目に留まった。

 ってことは、窓が開いているって事、だよね。

 やだ、下手したら誰かに見られちゃうよ。

 恥ずかしさが急上昇してきた。

 感覚が唇から脳へ伝わり、身体中火照っているのが自分でも分かる。


「何? そんなに俺に夢中な訳? それなら、早く言えばいいじゃん」

「はっ? 違うから。あんたなんかに夢中になるもんですか!! あたしが心を許すのは、ミズキだけなんだから」

「瑞希だけど?」

「同じ名前でも違うの!! あたしのミズキは優しくって──」

 再び塞がれた唇。

 さっきのような触れるだけではなく、生暖かい物体が割って入ってきた。

 だから、此処……がっ、こう……。

 想いと反して、意識がモウロウとなり立っている力さえも失い、あたしを支えたままベッドに腰掛け、何故か彼の膝の上に座らせられる状態に。

 この体制、ヤバくない? ──んっ……。

 離して、よ。

 片腕だけで抱かれているのに、あたしが、もがいて振り切れるほど柔な力じゃない。


「ミズキ……」

 あたし、悲しいよ。



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