アイコトバ。 feat.とうふ白玉

*2*






「そろそろ着きますからね~」


その声に私の顔は正面を向いた。目の前にいる妻が何気ない顔で「どうかしました?」と話しかけてきた。


「あ、いや……」


私は返答に困りあたふたしていると、妻が前の席でクスクス笑っている。少し恥ずかしい。


照れを隠すように私は手に持っていた黒い封書に視線を移す。妻はその行動で全てを察したようだ。気が利くな。


数ヶ月前に妻がある雑誌の旅行ツアーに応募して当たったらしい。この封書が届いた時は、私も妻も何がなんだかわからず、新種の詐欺だと疑ってしまった。


そのときは、行く気など毛頭なかったのだが、


お金は一切必要ありません。必要な物も全てこちらで用意します。


と書いてあり、「たまには二人でゆっくりしてきて下さいよ」と、息子夫婦に背中を押され、参加したのだ。


「二人で旅行なんて久しぶりですねぇ」


妻の声で私は顔を上げる。視線の先には、優しそうに微笑む妻がいた。私もゆっくりと微笑み、


「そうだな。新婚旅行以来じゃないか?」


と、嬉しそうに返す。視線の先には優しく美しい妻。あぁ、私はなんて幸福者なのだろう。


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