涙
「それで」とエミリーは言いながら再びソファーに腰を下ろした。「何でピアノを習おうと思ったの？」


「特にたいした理由はないんだけど・・・、暇な時間に何かできればいいかなって・・・」


「それはいい考えね。私は4歳の頃からピアノを弾いているけど、そのおかげで暇だなんて感じたこと一度もないもの。ピアノを弾いているとね、まるで世界中を旅しているような気分になるのよ。弾いているときは疲れだって全然感じないの。いつまでも弾き続けられるわ」
　
自分もそんな風になれたらどんなに素敵だろうと僕は想像した。

でもピアノを優雅に弾いている姿よりも、弾けずに苦労している姿の方が容易に想像できた。
　

その後の話で僕は週に1度、水曜日の午後7時から9時までの2時間エミリーにピアノを教わることになった。

レッスン料はいらないとエミリーは言ってくれた。


「あなたに一から教えることで私も初心に戻ることができるの。それは私にとっても、とても大切なことなのよ」
　

エミリーはそう言うと、僕に素敵な笑顔を向けてくれた。




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