揺らぐ幻影

《田上さんサラサラより巻いてる感じ。見慣れてるだけか笑》

《まんまじゃん笑。じゃあ巻き髪がんばる》

《女子は大変、クラスん奴らコンセント独占するから俺ら男は迂闊にケータイ充電できない笑》


  ……うわ、

  何打ってんだろ

  、わたし

  きしょくわる、くない……?

駆け引き上手な恋愛を絡めた計算などしたつもりはなかったが、

思いの外女っぽいメールを送っている自分に結衣はぞっとした。

全くらしくないじゃないか。


片手間に操作ができるメールは気軽な分、逆に厄介だと思う。

油断すると文面が自分とは違う別人のキャラになっていて、

実際会った時に喋れない内容をすらすら打ってしっていたりする。


あれだけ可愛いらしい言葉の綾に優れた内容を送りたくないと思い、

絵文字も語尾も淡泊にと気を使っていたというのに、クラスメートの女子みたいな字面だった。


  もやだ恥ずかし、

  消去したいよ

自己嫌悪の深鍋に嵌まって煮えてしまう。
カレーがしきについて焦げるように、こびりついてしまいそうだ。

どうかオーバーだと引かないであげてほしい。
なぜなら、結衣は天然を演出する女らしいキャラではないからだ。

近藤の携帯電話を奪って今すぐ自分のメールを削除したい。

  やだ、さいあく

かっこいいとほざいたり、巻き髪が良いと言うから頑張るだなんて、

言葉遊びにもなっていやしない。直球過ぎて恐ろしい。

  本気恥ずかし

  ないって……最悪


やってしまったことを後悔しても無駄だけれど、おやすみと打って強制終了させた。

とりあえず仕方がない。
次からはもう少し女らしさを落としたライト感覚の内容にしなくては。


――なんて。
そんな不安など、本当は真剣な悩みではないといっても嘘にはならない。

彼からの《また明日》の一言に、明日会ってくれるのだと、簡単にほころぶ唇は正直だ。


寝付きが良いのは、早く夢の中で好きな人に会いたいからで、

彼女は自意識過剰と自己嫌悪のお城に住む片思い国のお姫様だ。

シーツに沈む世界は、多分ぶりっ子めいたピンク色のお花が咲き乱れていた。


…‥

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