揺らぐ幻影
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穏やかな日だまりが落ちるひなたは温かいが、

冷たい風が活躍する日陰だと、服と肌が擦れてピリビリと氷柱を刺すように痛い。

凍てついた空気が世界を静かに包み込む。


「やったね、ポッケ」

「自演分かってきた感じ?」

甲高い声は廊下に反響し、倍となってエネルギッシュに返ってくる。

里緒菜単品、結衣・愛美コンビで本日も暇な彼女たちは作戦に取り掛かる。


ある程度友人として近藤に顔が割れていて、かつ同じ財布をぶら下げている里緒菜は、

不自然にならないように 靴箱前で他のクラスの人と立ち話をしながら探偵に徹底していた。


かさついた音を立てるそれは等間隔のリズムで階段を芋虫のように降りていく。

眺めているだけで無性に切なくなるその正体は、拳くらいの輪が幾重にもなった懐かしの玩具スプリングだ。

虹色をしているそれは、恐らく誰しもが小学生の頃に一度は嵌まったことがあるだろう。


くるくるとカールした髪を毛先へと螺旋になぞりながら、

結衣はスプリングのお散歩をするように引率して階段を降りている。


「田上さん最近ピーターパン症候郡だろ」
「やべぇ懐い」
「わらべー結衣ちゃん」

……などと、すれ違う生徒に作戦ネタをいじられながら、

この調子なら掴みはオッケーだと安心し、満足そうな笑顔で挨拶を交わす。


突っ込まれることを狙った百のボケは幼稚だけれど楽しくて、

「ぽこりん」と、愛美が一言。

この瞬間のために生きているという大規模な発想は、微笑ましい恋心の悪影響だ。



「おはよう」


現れた彼に言えば、

「はよー」と、違和感なく返してくれるから幸せだった。

生きていて良かったと女子高生らしく感動しちゃう場面だ。


誰に向けているのか探したり、機械的に返したりではなく、

近藤は柔らかく笑ってから、彼女におはようの呪文をくれた。

そんな些細な変化に胸の中が温かくなる。

成長に比例して好きな人との距離が近くなることが最高で、社会人がいうところのやり甲斐を感じる。

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