揺らぐ幻影

時計の針は明日になった。
二月十六日、近藤にチョコを渡すと当初予定していた日だ。


愛美がバレンタインデーを提案してくれたあの日、里緒菜が励ましてくれたのに。


電子レンジの明かりが好き。
慰めてくれるような温かみがあるから。

舞台に上がれるのは実力があり努力を尽くした人で、

丸いステージで踊る主役は皆を幸せにさせる甘さを中に持っている。


キッチンにしゃがみ込んで、箱の中で結衣は膨らむ物体を眺めていた。


  ……。

恋愛をするのは早かったんじゃないだろうか。

恋愛より大切にしないといけないことが他にもあったんじゃないだろうか。


見落としたんじゃない、彼女は見ないふりをしていたんじゃないか。

罪滅ぼしがしたい。
償いがしたい。


キッチンはお花畑がよく似合う。
エプロンを纏えば性格が可愛くなれる気がするのは思い違いなのだろうか。

中身を取り繕いたい、いい子になりたい。

どうかヒロインに抜擢されるような女の子になりたい。


今の結衣はあまりに汚れている。

もうすぐ高校二年生になるのだから、それで普通なのだけれど、普通だからヨシとしたくない。


お化粧をすれば、髪を凝れば、服を着れば、乙女らしくレベルアップした。

性格だってオシャレしたい。
着飾り過ぎて偽善者にならない程度に可愛くなりたい。


だって結衣は恋愛中だ。

もしもミラクルが起こり、近藤と付き合うことになったとしても、

交際はキャハハだけじゃないんだから、化けの皮が剥がれたら、

そう、

今の結衣の精神的なお子ちゃま具合は破局を引き起こすだろう。

仮の話はくだらないが、この場合は間違いないはずだ。


そう、こんな彼女に二人の畏友がいつの日か呆れられるかもしれない。

里緒菜。愛美。

いつか二人に好きな人が出来たら、同じように協力してあげられる女性になりたい。

縁の下の力持ちでありたい、舞台袖で支えてあげたい、二人がそうしてくれるように。


今、舞台にいる結衣は実力ではなくW主演の愛美と里緒菜が譲ってくれたお陰だ。

スポットライトが似合う人になりたい。


月光のない夜は静かに過ぎて行く。


…‥

< 373 / 611 >

この作品をシェア

pagetop