一なる騎士
 そして、今、光り輝く王座には『大地の王』ヴィドーラの姿があった。

 銀の縁取りのある白いローブ。
 肩からかかる白いマントの裏打ちは銀。
 白銀の装い。

 まさしく王の正装であった。
 しかし、それにもかかわらず王の風体はまた何とも異様であった。

 齢四十にも満たぬと言うのに、彼の髪は色を失い、精悍だった顔もたるみ、深いしわが刻まれ、黄ばんだ皮膚には老人のものにも似たしみがいくつも浮き出していた。
 
 少しでも医術の心得があるものには、酒色に溺れる毎日が彼の健康を損なってしまったことが一目瞭然であったろう。

 しかし、何よりも目を引いた異様さは王が胸にしっかりと剣を抱え込んでいることだった。

 むろん、ただの剣ではない。

 常ならば王城の奥深くにある礼拝室に安置されているはずのもの。
 そんなふうに粗略に扱われるべきではないもの。

 女神の手になる剣、あるいは女神の分かつ身とも言われるもの。

 荒ぶる精霊たちを鎮め、豊穣をもたらし、大地とその民との強き絆となるもの。

 金細工の施された豪奢な鉄鞘に収められたそれは、それは、まさしく『大地の剣』ルイアスであった。

 滅多に人目に触れることもないが、王の戴冠式のときには、剣に柄にはめ込まれた黄金の宝玉はまばゆい輝きを放っていたというのに、今は放つ光も弱弱しい。

 正装した王の白い胸元を不安定な金色の光がほのかに染め上げているだけである。


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